私たちが電話で聞いたとき、D(ディー)とE(イー)はなかなか聞き分けられません。日常生活では聞き間違ってもあまり影響はありませんが、もし航空管制で聞き間違ったら生命に関わるような重大事故になることもあります。
フォネティック・コード(欧文通話表)は、無線通話などの音が聞き取りにくい状況で聞き間違いを防ぐために使われています。これによって、耳で聞いたときに文字を一意的に判別できます。最も有名なのは航空管制の無線交信で使われるもので、下表のようになります。
ここでは、アルファベットは独特の単語を使いますが、数字は9を除いてほぼ英語読みです。例えば、ISAACは「India Sierra Alfa Alfa Charlie」と発音します。数字は1桁ずつ読みますが、羽田空港のグランド(地上)管制では10をテン、11をイレブンと読むことが多いです。なお、フォネティック(phonetic)は「音声(学)の」と訳され、telephoneやheadphoneのphoneと同じ意味です。
文字 | 単語 | 読み | 主な意味 |
---|---|---|---|
A | Alfa | アルファ | (=Alpha) 物事の最初 |
B | Bravo | ブラボー | 喝采の叫び |
C | Charlie | チャーリー | 男性の名前 |
D | Delta | デルタ | 河口の三角州 |
E | Echo | エコー | こだま、反響 |
F | Foxtrot | フォックストロット | ダンスのリズムの一種 |
G | Golf | ゴルフ | 球技の一種 |
H | Hotel | ホテール | 宿泊施設 |
I | India | インディア | 国名 |
J | Juliett | ジュリエット | 女性の名前 |
K | Kilo | キーロー | 千を表す単位 |
L | Lima | リーマー | ペルーの首都 |
M | Mike | マイク | 男性の名前 |
N | November | ノーベンバー | 11月 |
O | Oscar | オスカー | 男性の名前 |
P | Papa | パパ | 父親の呼称の一種 |
Q | Quebec | ケベック | カナダの州名 |
R | Romeo | ロミオ | 男性の名前 |
S | Sierra | シエラ | スペインの山脈 |
T | Tango | タンゴ | ダンス音楽の一種 |
U | Uniform | ユニフォーム | 制服 |
V | Victor | ビクター | 勝者 |
W | Whiskey | ウィスキー | 酒の一種 |
X | X-Ray | エクスレイ | レントゲン線 |
Y | Yankee | ヤンキー | 米国人の蔑称 |
Z | Zulu | ズールー | 部族名 |
0 | Zero | ゼロ | |
1 | One | ワン | |
2 | Two | ツー | |
3 | Three | ツリー | |
4 | Four | フォー | |
5 | Five | ファイフ | |
6 | Six | シックス | |
7 | Seven | セブン | |
8 | Eight | エイト | |
9 | Niner | ナイナー |
オーケストラや吹奏楽のように大人数で合奏するとき、練習で曲の途中から演奏するのに便利なように、曲の節目ごとにA, B, C, ... あるいは1, 2, 3, ... などの練習番号が楽譜に書いてある場合があります。(アルファベットで書いてあっても練習番号と呼びます。)
指揮者は「それでは、Dの4小節前から」などと指示するのですが、アルファベットの場合は次のように言っています。
しかし、これには問題があるのです。
指揮者がどのアルファベットなのか明確に分かるように指示しているつもりでも、演奏者が聞き分けられない場合があり、練習現場では混乱が起きることがあるのです。結果として、貴重な練習時間を無駄に使ってしまいます。このとき、前項のフォネティック・コードを使えば問題は一挙に解決するはずです。国際的に通用するのも、指揮者にとっては好都合です。
数字の練習番号の場合も同じです。14(じゅうし)と言われたとき、その少し前の12(じゅうに)と聞き分けるのは難しいです。ワン・フォーとワン・ツーなら、聞き間違いはほとんどありません。
指揮者も演奏者も最初は違和感があるでしょうが、全36文字でフォネティック・コードを使えば、声が聞き取りにくい合奏の現場でも正確に指示が伝えることができます。しかし、残念なことに、フォネティック・コードを使っている指揮者を見たことがありませんし、今後もおそらく出会うことはないでしょう。