最近、交通渋滞解決の切り札としてLRTが脚光を浴びています。新聞でも、全国各地のLRT構想が記事になることが多くなってきています。ほとんどの新聞記事では「LRT(次世代型路面電車)」と書いてありますが、これは大きな誤りです。
LRTは「次世代型路面電車」ではありません。車両そのものは「LRV(Light Rail Vehicle)」と呼ぶべきです。
また、LRVを「次世代型路面電車」と訳するのも問題です。時間軸に対して相対的な用語を用いるべきではありません。現在は正に「次世代型」ですが、将来、ほとんどの路面電車がLRVになったときには、次世代型ではなく現世代型の路面電車になります。このような呼び方をしていると、ボーイング737型旅客機と同じような呼称の問題を起こしかねません。
※ボーイング737型旅客機には、大きく分けて在来型(Classic)、新世代型(New Generation)、次世代型(Next Generation)の3種類がありますが、現在製造しているのは次世代型だけです。つまり、実際のところ、新世代型は旧世代型で、次世代型は現世代型なのです。
LRVの「Light」の意を汲んで「軽快路面電車」と訳すべきです。あるいは、ホームとの段差がほとんど無いので「低床路面電車」と意訳してもいいでしょう。 将来、モーターを使わない駆動方式のLRVが出現したら、「電車」と呼ぶのは不適切です。しかし、そのようなLRVが普及してから新しい訳語を考えればよいでしょう。なお、ドイツには内燃機関(ディーゼル・エンジン)で駆動する路面鉄道車両があります(過去には、札幌市電にもありました)。
ところで、LRVが車両そのものを指すならば、LRTは一体何なのでしょうか?
LRT(Light Rail Transit)は、車両そのものではなく、LRVを用いた交通システムのことです。
LRTには、明確な定義はありませんが、私は以下の全てを満たすものがLRTであると考えています。現在、日本では、17都市で19事業者が路面電車を運行していますが、このLRTの定義にあてはまるのは富山ライトレールだけです。
この項目を書いた後で発売された朝日新聞社の就職対策用用語集では、LRVは車両でLRTは交通システムであることを明記しています(参考文献4, p.124)。この点においては、朝日新聞社の姿勢は評価できます。
写真1: 富山ライトレール TLR0600形 (愛称: ポートラム)
JR西日本富山港線を継承し、2ヶ月運休してホームの低床化と富山駅側の新線への切替工事を経て、2006年4月1日に開業しました。全7編成がLRVで、異なる色に塗られています。TLR0600形は新潟トランシス製で、岡山電気軌道9200形(MOMO)や万葉線MLRV1000形と同型の車体です。
写真2: 万葉線 MLRV1000形 (愛称: アイトラム)
万葉線株式会社の路面電車は、加越能鉄道万葉線を継承し、2002年4月1日に開業しました。万葉線はもともと路面電車であったため、継承後に導入したLRV2編成と従来型の路面電車10両で運行しています。
写真3: 万葉線 デ7070形
加越能鉄道から継承した、従来型の路面電車です。