Clarinet Girls and a Boy

映画「スウィングガールズ」で、女の子ばかりのビッグ・バンドの中に一人だけいる男の子が、野外演奏の休憩中に、「Swing Girls」と書いてある紙製の看板に太いマジックペンで自ら「and a BOY」と力強く書き加える場面があります。

これを見たとき、私の中で中学生時代のある想い出がよみがえってきました。

当時、私が通っていた中学校の吹奏楽部には部員が100名近くいました。 私が入部したとき、同じ学年のクラリネットは13人でしたが、男は私だけでした。2年生や3年生の先輩方も全員女性でしたので、約40人のクラリネット吹きの中で男がたった1人という状態で練習に励んでいました。今ならば、このような男女構成比でも構わないのですが、その頃は男と女には何かと壁がある時期ですし、女性のほうが体が大きいですから、孤独感や疎外感に苛まれ、男性が複数人いるパートが本当にうらやましかったのでした。

ある日、3年生のパート・リーダーの先輩が、練習内容を記録するためのノートを携えているのを見ました。表紙には題名が付けられていましたが、

「Clarinet Girls」

というものでした。

おお、私は無視されているのか!

でも、先輩に「クラリネットには男もいますので、その題名はどうにかなりませんか。」と申し出ることはとてもできませんでした。

それから1年が経って、新入生が入部しました。クラリネットはやっぱり全員女性でした。パートリーダーも既に1つ上の先輩に代わっています。そして、また、あのノートの表紙を目にする機会が訪れました。すると、何と、

「and a Boy」

と細いボールペンで申し訳程度に書き加えてありました。

私の疎外感は更に増幅しました。ああ、結局は申し訳程度の存在なのか...

そして、事実なのでどうしようもないものの、Girlsは複数形で、a Boyは単数形。

「Clarinet Girls and a Boy」...。この言葉がしばらく脳裏から離れませんでした。

しかし、そのパートリーダーには本当にお世話になりました。クラリネット3本でアンサンブルを組んでコンテストに出場し、地区大会を突破したときにはとても喜んでくれました。また、一緒にアンサンブルをやった2人の同級生とは卒業してしばらく経ってからそれぞれ別の機会に再会し、中学時代の想い出話に花を咲かせました。このようにして、私の疎外感は少しずつ薄れていきました。

実は、「申し訳程度」というのは私の思い込みに過ぎず、「and a Boy」と書き加えてくれたことに初めから素直に感謝すべきだったのです。しかも、問題の根源はこのノートの表題ではありません。もし表題が「Clarinet Young People」であったとしても、結果は変わらなかったしょう。

ちなみに、現在所属しているオーケストラでは、クラリネットは全員男性です。


(参考文献)

  1. 矢口史靖監督『スウィングガールズ』(映画), 2004年, 日本.


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