「障がい者」という表記はおかしいと思いませんか? 「障碍者」と書きましょう。

最近、「障がい者」という表記が目に付くようになってきました。何と、山形県では、県全体でこの表記にするという条例案を可決しました(注1)。その趣旨は、「『害』の文字は『害悪』『公害』などのマイナスイメージが強く、関係者から『遺憾、残念に感じられ、表記を改めるべきだ』という声が多かったため、人権尊重の観点から表記を改めた。(注2)」ということです。しかし、平仮名にすればいいというものなのでしょうか?

もし、親が子供に「障がい者の『がい』は、どういう漢字を書くの?」と聞かれたら、どう答えますか? 学校の先生が生徒に尋ねられた場合はどうしますか? もし、単に「害」を「がい」に置き換えたと理解しているならば、「本当は『害』と書くのだが、関係者の要望で『がい』と表記することになった。」と答えてしまうでしょう。それでは、純真な心を持ち、好奇心も旺盛な子供は、到底納得しないと思います。あるいは、関係者の要望で物事が変わることに衝撃を受けて、「声の大きい者が勝つ」というような、野蛮で屈折した心を持ってしまうかもしれません。

交ぜ書き(漢字仮名交じりの表記)に強い違和感を持った私は、辞書を手に取りました。「障害」という項目を引くと、「『障碍』『障礙』とも表記する」と書いてあるではありませんか(注3)。そういえば、私が常々参考にしているHTMLの本でも、「視覚障碍者」という表記があったことを思い出しました(注4)。

「障」と「碍」は、いずれも、「さえぎる」という意味を持った漢字ですが、必ずしも悪い意味ではありません。「障壁」や「碍子」は、物や電気を遮ることが本来の機能です。したがって、「障碍者」と表記すればいいのです。国立機関にもこの考えを支持するの方がいらっしゃるのは、心強いことです(注5)。

「障害者」を「障がい者」と言い換えることが等生化(normalization)への第一歩であると主張している方もいらっしゃいます(注6)。しかし、表記を変えただけで等生化が促進されるとは思えません。「障碍者」と表記しても同様です。また、一部の障害者支援団体は、山形県での「障がい者」表記を足掛かりにして、国に対しても法律名の表記の変更を迫っていくものと予想されます。そこでお願いです。もしそのような活動をするのでしたら、「障がい者」ではなく「障碍者」に変更するように働きかけて下さい。

ところで、「障害者」に代わる表記がどのくらい普及しているのかを調べてみました。Web上の検索サイトで各表記について検索を行い、単純に検索結果の件数を比較する方法で調査しました。したがって、信頼性については疑わしい部分があることを御了承下さい。

表1: 各表記の検索結果 (単位: 件)
検索サイト名障害者障碍者障礙者障がい者
Yahoo! JAPAN13,000,000116,000117,000505,000
Google 日本6,510,000564,0001,350,000841,000

表2: 各表記の検索結果の割合 (単位: 「障害者」を100とした指数)
検索サイト名障害者障碍者障礙者障がい者
Yahoo! JAPAN100.0000.8920.9003.885
Google 日本100.0008.66420.73712.919

調査日: 2007-05-04 (表1, 表2とも)

Yahoo!では「障害者」が圧倒的に多いという結果でした。Googleでも「障害者」が最も多いのですが、「障礙者」が意外に健闘しています。また、「障碍者」と「障がい者」もYahoo!よりも比較的多く検索されていました。私は、「障害者」が圧倒的に多く、次に「障がい者」で、「障碍者」と「障礙者」は更に少ないと予想していたので、この結果は予想外でした。

「碍」は「害」に比べても難しい漢字ではありません。「石・日・一寸(いし・ひ・いっすん)」と覚えましょう。「礙」にしても、「石偏に疑う」と覚えればいいのです。いずれにせよ、小学校で習う漢字を組み合わせたものです。したがって、敢えて「がい」と平仮名で表記する必然性は全く無いのです

「障がい者」という、交ぜ書きを奨励することは好ましくありません。それこそ、日本語にとって「害」であると私は考えます。


(注)

  1. 佐藤薫「県:「障がい」表記に 国の法律用語を除き--2月定例会で条例案可決/山形」,『毎日新聞 山形版』, 2007-03-26, Web版.
  2. Ibid.
  3. 『明鏡国語辞典 (電子辞書版, CASIO XD-GT9300)』, 大修館書店, s. v. 「障害」.
    なお、「礙」と「碍」は同音同義の漢字です。『漢字源 JIS版 (電子辞書版, CASIO XD-GT9300)』, 小学館, s. v. 「礙」, 「碍」.
  4. ビレッジセンターHTML&SGML研究チーム『正しいHTML4.0 リファレンス&作法』, ビレッジセンター出版局, 1999年, ISBN:9784894361119(絶版), p.73.
  5. 熊田政信「「障害」は「障碍」(「障礙」)と表記すべきである」, 『国リハニュース』, 第226号(2002年8月), http://www.rehab.go.jp/rehanews/japanese/No226/5_story.html, in 『国立身体障害者リハビリテーションセンター』, http://www.rehab.go.jp/.
  6. 佐藤薫, op., cit.
  7. 『Yahoo! JAPAN』, http://www.yahoo.co.jp/,
    『Google 日本』, http://www.google.co.jp/.


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